中小企業に人事制度は何人から必要?人数ではなく「6つのサイン」で判断する

「人事制度を作った方がいいでしょうか?」

中小企業の経営者から、こうした相談を受けることがあります。

その背景には、

  • 「〇〇さんが頑張ってくれない」
  • 「社員から評価について聞かれても、うまく答えられない」
  • 「社員のモチベーションを上げたい」

といった悩みがあります。

ただ、ここでいきなり「では人事制度を作りましょう」と進めると、制度が完成した後も「結局、これで何が変わるのだろう」と釈然としないことがあります。

人事制度は、作ることそのものが目的ではありません。

まずは「何のために人事制度を作るのか」を整理する必要があります。

この記事では、中小企業が人事制度を導入するタイミングについて、社員数ではなく、会社の状態から判断する基準を整理します。

そもそも人事制度は何のためにあるのか

人事制度というと、「社員を評価するための仕組み」というイメージを持つ方が多いと思います。

もちろん、それも一つの役割です。

ただ、私はそれが人事制度の本筋ではないと考えています。

人事制度は、経営者の想いや会社の存在意義を社員に伝え、会社が求める方向へ行動してもらうための仕組みです。

例えば、会社が求める行動をしてくれた社員を評価する。

より高い役割を担える人には、それにふさわしいポストを用意する。

役割や成果に応じて給与を決める。

評価制度、等級制度、報酬制度といった仕組みは、すべてそれを実現するための手段です。

つまり、「評価すること」や「給与を決めること」は重要ですが、人事制度の目的そのものではありません。

会社がどこへ向かい、社員に何を求めるのか。

それを社員に伝え、行動につなげるために人事制度があります。

この前提を持ったうえで、「では、どんな会社に人事制度が必要なのか」を考えてみます。

人事制度が必要になる6つのサイン

1. 社長が社員全員の顔・名前・仕事ぶりを把握できなくなった

社員が少ないうちは、社長自身が一人ひとりの仕事を見ています。

誰が頑張っているか。
誰がどんな仕事を任されているか。
誰に次の役割を任せたいか。

これを社長が把握できているのであれば、必ずしも複雑な制度は必要ありません。

しかし、社員が増えてくると、社長が全員の仕事ぶりを直接把握することが難しくなります。

この状態になると、社長一人の感覚だけで評価することにも限界が出てきます。

管理職に評価を任せる必要が生まれ、そのためには「何を見て評価するのか」「各役職に何を求めるのか」という基準が必要になります。

このタイミングは、人事制度を考える一つの大きなサインです。

2. 人件費を計画的に管理する必要が出てきた

社員が少ないうちは、

「今年頑張ったから給与を上げよう」

という判断でも、それほど大きな問題にならないことがあります。

しかし、社員数が増えると、一人ひとりの昇給が積み重なり、会社全体の固定費に大きく影響します。

その場の判断だけで給与を上げ続けると、後から人件費が重くなり、P/Lの予測が難しくなることもあります。

そのため、

  • どの役割なら、どの程度の給与水準にするのか
  • どのような条件で昇給するのか
  • 次の等級に上がると、どの程度給与が変わるのか

といった基準を整理する必要が出てきます。

人件費を経営数字として管理する必要が生じた時も、人事制度を検討するタイミングです。

3. 「なぜ私はこの評価なのですか?」に答えられなくなった

少人数で、社員と社長の信頼関係が強い間は、

「今年は頑張ってくれたから、この評価にした」

という説明でも納得してもらえることがあります。

しかし、社員が増えたり、会社との距離が広がったりすると、

「なぜAさんは評価が高いのですか?」
「なぜ私はこの給与なのですか?」

といった質問が出てきます。

その時に、会社として説明できる基準がなければ、社員には「社長の好き嫌いで決めている」と見えてしまうことがあります。

もし説明が難しくなってきたのであれば、評価や給与の考え方を一定のルールとして言語化する必要があります。

人事制度は、その説明の根拠になります。

4. 社員の仕事レベルに差が出てきた

社員が増えてくると、同じ「社員」でも仕事のレベルに差が出てきます。

例えば、

「Aさんには難しい仕事を任せられる」
「Bさんはまだ基本業務が中心」

という状態です。

そこで、

「Aさんの給与をBさんより高くしたい」

と思っても、その差をどのように説明するかが問題になります。

仕事の難易度、責任範囲、経験、成果などを整理しなければ、単に給与差をつけただけでは不公平感につながることがあります。

そのため、

「このレベルの仕事を任せられる人はこの等級」
「この等級にはこの役割を求める」

といった基準を作る必要が出てきます。

これも、人事制度が必要になるサインです。

5. 事業承継後、「なぜこの人が?」という疑問が出てきた

事業承継のタイミングも、人事制度を見直す大きなきっかけです。

先代の社長の時代には、

「社長がそう言うなら」

で社員が納得していたこともあります。

長年会社を率いてきた先代には、経験やカリスマ性があり、その判断自体が社員に受け入れられていたこともあります。

しかし、代替わりすると、

「なぜこの人が管理職なのか」
「なぜこの人の給与が高いのか」

といった説明を求められることがあります。

先代と同じやり方をそのまま続けても、同じようには機能しません。

新しい経営者は、自分自身の経営方針を示し、先代を超えていく必要があります。

そのためには、先代の頭の中にあった判断基準を言語化し、自分の経営方針に合わせて仕組みに変えていくことが必要になります。

人事制度は、そのための重要なツールになります。

6. 管理職や後継者を育てたい

「管理職を任せられる人がいない」
「後継者が育たない」

という相談もあります。

この場合、そもそも、

「管理職とは何をする人なのか」
「どんな状態になれば管理職に昇格できるのか」
「後継者に何を身につけてほしいのか」

が明確になっていないことがあります。

ゴールが分からないまま「育ってほしい」と言われても、社員側も何を目指せばよいか分かりません。

等級制度や評価制度は、単に社員を評価するだけではなく、次の役割に上がるための道しるべとしても使えます。

管理職や後継者を育てたい時には、何を求めるのかを明確にするための制度が必要になります。

人事制度までは必要なくても、MVVは整理した方がいい会社

ここまで読んで、

「まだ人事制度を作るほどではない」

と思った会社もあると思います。

その場合でも、MVV(Mission・Vision・Value)など、会社の想いや価値観を言語化することは考えてよいと思います。

特に、創業メンバーや家族などの「仲間」以外の人を初めて採用するタイミングです。

仲間内であれば、細かく説明しなくても、

「この会社は何を目指しているか」
「どういう考え方を大切にしているか」

を共有できていることがあります。

しかし、初めて会う人を採用するとなると、能力だけで選ぶのは危険です。

能力が高くても、会社の考え方と本人の価値観が大きく違えば、入社後に問題が起きることがあります。

だからこそ、

  • 何のためにこの会社があるのか
  • どんな会社を目指すのか
  • どのような行動を大切にするのか

を言葉にしておく必要があります。

すでに社員がいる会社でも、「もっと会社の方針に沿って動いてほしい」と感じているのであれば、まずMVVを整理するだけでも意味があります。

また、

「人事制度までは必要ないが、頑張っている人とそうでない人に少し差をつけたい」

という段階なら、まず「会社が大切にしている行動をしているか」という観点で見るだけでも一つの方法です。

逆に、人事制度を作らない方がいい会社

人事制度は、作れば必ず良くなるものではありません。

むしろ、作らない方がいいケースもあります。

創業直後で、まだ仲間内で会社を作っている段階

事業を立ち上げたばかりで、まだ少人数の仲間で試行錯誤している時期です。

この段階では、会社としてのルールを細かく作ることより、まず事業そのものを作ることの方が重要です。

給与についても、

「みんなで山分け」
「責任を持つ兄貴分が少し多い」

というような形でも回ることがあります。

この時期に細かな制度を作っても、変化のスピードに制度が追いつかない可能性があります。

少人数で、社員の実力差が明確な会社

社長自身が全員の仕事を把握していて、

「誰がどの程度の仕事をしているか」

が明確なのであれば、制度を作るメリットはそれほど大きくありません。

制度を作ること自体が目的になってしまう可能性があります。

社長が結局すべて独断で決めたい会社

これは非常に重要です。

人事制度を作ると、社員は、

「これからは、この基準で評価されるのだ」

と期待します。

しかし、制度を作った後も、

「今回は特別」
「社長が気に入っているから昇格」
「制度ではこうだけど、今回は違う」

という判断を繰り返すのであれば、制度を作る意味はありません。

むしろ社員からすれば、

「制度を作ったのに、結局社長の好き嫌いで決まる」

と見えます。

制度を作ったことで生まれた期待が、落胆や不信感に変わることもあります。

どれほど制度を作る必要性がありそうに見えても、会社として一定のルールを守る意思がないのであれば、私は作らない方がいいと考えています。

人事制度は「何人から」ではなく「説明と仕組みが必要になった時」

人事制度が必要になる人数に、明確な正解はありません。

大切なのは人数そのものではなく、

  • 社長が社員全員の仕事を把握できなくなった
  • 人件費を計画的に管理する必要が出た
  • 評価や給与について社員に説明できなくなった
  • 仕事レベルに応じた役割や給与差を作る必要が出た
  • 事業承継によって、判断基準を仕組みにする必要が出た
  • 管理職や後継者を育てるための基準が必要になった

といった変化が起きたかどうかです。

人事制度は、評価表を作るためのものではありません。

経営者の想いを社員に伝え、会社が目指す方向へ社員の行動をそろえるための仕組みです。

その必要性が出てきた時が、人事制度を考えるタイミングです。

一方で、まだ制度までは必要ない会社でも、創業メンバー以外を採用する段階になれば、MVVなど会社の想いを言語化するところから始めてもよいでしょう。

「自社には人事制度が必要なのか、それともまだ早いのか分からない」という場合は、最初から制度を作る前提ではなく、現在の会社の状態から整理することをおすすめします。

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